研究概要
フルオラス化学
高度にフッ素化された有機物は通常の有機溶媒や水と混和せず新たな相(フルオラス相)を形成します。この性質(フルオラス性)を利用して、回収・再利用が容易な新しい触媒や反応剤の開発を行います。具体的には、ペルフルオロアルキル基を導入した有機分子を合成し、新たな反応性や選択性を調べるとともに反応後の回収・再利用を検討します。
また、フルオラス溶媒を液膜として用いる反応系(フェイズ・バニシング法:PV法)の構築を行っています。この方法は、滴下ロートや温度制御装置を必要としない試験管1本で有機合成ができる簡便な方法です。以下にPV法のコンセプトを示します。
ペルフルオロアルキル基の電子求引性の利用
有機物にフルオラス性を付与するためには、分子の骨格にペルフルオロアルキル(CnF2n+1)基を導入することによって行います。ところで、ペルフルオロアルキル基は非常に強い電子求引性を持っていることが知られています。そこで、フルオラス性を持たせると同時に、この強い電子求引性を利用した新たな反応剤や材料の開発を行っています。例えば、ペルフルオロブチル基を導入したベンゾキノン誘導体1が、強い酸化剤となることを見出しています。
計算化学による反応機構解明
ラジカル反応やイオン反応の反応過程を計算化学的手法によって明らかにしています。合成実験者の視点から実験系に近いモデルを扱うと同時に計算化学的にも満足できるレベルでの反応機構解明を目指しています。例えば、アシルラジカルがイミン窒素に特異的に反応する理由を計算化学的考察により明らかとしました。この反応について、DFT計算およびNBO解析を行った結果を以下に示します。