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研究概要

有機合成のフロンティア  新反応・新反応媒体・新反応デバイス

柳研究室(Ryu Lab)での研究プロジェクト

有機合成は医薬品や電子材料など人間社会に有用な分子性物質を創製する学問です。当研究室では新しい力量ある有機合成反応の開発を第一のミッションに研究を行っています。

「得やすい原料から得にくい生成物を簡単な方法でつくる。」

一酸化炭素やアルケンやアルキンなどは潜在的に豊富にして安価な炭素資源ですが、これらの積極的な活用をめざしています。 特に一酸化炭素は石炭と加熱水蒸気から発生させることが出来、カチオン、アニオン、ラジカル、金属種などとも容易に反応することから一酸化炭素を活用する化学をC1化学と呼びます。

「活性種の特性を見抜き、これを活かす」

有機合成反応の開発では反応活性種の働きが鍵となります。そこでラジカル種や有機遷移金属種が持つさまざまな特性の探求を行うと共に、これら反応特性を最大限活かした反応の開発を行うことにしています。また、多成分を一気に連結させることができれば、集積型の合成手法に高めることになります。

「大きな原子効率と小さなE−ファクター、反応はグリーンに」

21世紀の化学は地球環境の保全と無縁ではありえません。有機合成化学が担わなければならない役割は環境調和型の有機合成反応すなわち「グリーンな有機合成反応」の開発です。環境調和型の化学を示すグリーンケミスストリー(Green Sustainable Chemistry)**の用語はすでに化学者の合言葉になっていますが、その大事な目標の中に原子効率(atom economy:** B. M. Trost 教授 (Stanford University)による概念)の高い反応や、目的物の合成過程で環境に負荷を与えることになる処理物を出来る限り産まない小さなE-ファクター(e-factor: *** R. A. Sheldon教授 (Delft University of Technology)による概念)の反応開発も重要です。高効率型の触媒反応の開発はグリーンケミスストリーの精神に合致しており、連続型ラジカル反応と共に常に研究対象に入れています。

「反応プロセスもグリーンに、マイクロフロー型で!」

一方、当研究室ではグリーンな反応のみならず、グリーンな反応プロセスの開発にも大きな力を注いでいます。従来の有害な有機溶媒に変わり得る反応媒体として、デザイナー・ソルベントと呼ばれるフルオラス溶媒やイオン液体の特性に大きく注目しています。さらに、熱効率・撹拌効率・光透過効率に優れたフロー型の反応のデバイスとしてマイクロリアクターに着目し、リービッヒ以来、150年以上の歴史を持つ従来型のガラスフラスコに置き換わる理想的な反応デバイスの追求も行っています。

このように当研究室ではグリーンな反応開発・環境に調和する反応メディア開発・エネルギー効率の良い反応デバイスにより、21世紀における新しい有機合成の姿に挑んでいます。この研究の最前線(フロンティア)に挑戦する意欲ある君たちを待っています。


参考: Important Principles of Green Chemistry
1. Minimizing environmental impact of chemistry by developing new sustainable technologies.
2. Encourages the development of products and processes that eliminate, or at least reduce, the generation of hazardous substances.
3. Reducing greenhouse gas emissions
4. Reducing toxic wastes
5. Using hazardous substances in a safe and controlled environment
6. Maximizing atom economy
7. Minimizing waste by using catalytic reactions
8. Increase energy efficiency under the mildest possible conditions

参考: *The simple definition of Barry Trost’s atom economy is a calculation of how much of the reactants remain in the final product. This is shown below:
For a generic multi-stage reaction:
A + B → C   C + D → E   E + F → G
Atom Economy = m.w. of G x 100 Σ (m.w. A,B,D,F)

***参考: Roger Sheldon’s E-factor can be made as complex and thorough or as simple as required. Assumptions on solvent and other factors can be made or a total analysis can be performed.
The E-factor calculation is defined by the ratio of the mass of waste per unit of product:
E-Factor = Total Waste (kg) / Product (kg)


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有機合成への一酸化炭素の利用:ラジカル反応の潜在力

近年、石油資源の大量消費による枯渇化が問題となっていますが、一酸化炭素は石炭と加熱水蒸気より発生が出来ることから(合成ガス)、潜在的に豊富な炭素資源ということができます。われわれは一酸化炭素をカルボニル基として有機分子へ導入する新しい有機合成手法、すなわちカルボニル化法の開拓を行っています。特にラジカル反応によるカルボニル化の研究ではこれまでに世界で先駆的な成果をあげてきました。ラジカル反応によるカルボニル化を経てアルデヒド、ケトン、エステル、アミドなどさまざまなカルボニル化合物の合成が達成できることを示してきました。

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その中間体はアシルラジカルですが、炭素ラジカルが一酸化炭素に付加することで発生できます。以下の二つのアルデヒド合成を比較してみましょう。左はJ. K. Stille教授らによるパラジウム触媒を用いたアルデヒド合成法とその触媒反応機構です。右はわれわれが独自に開発したアルデヒド合成法とその反応機構です。類似の試薬を用いていますが、反応の中身はまったく違っています。ラジカル法は適用基質がはるかに広いことも特長です。現在、一酸化炭素の加圧条件を必要としないカルボニル化反応に取り組んでいます。われわれが用いているラジカル反応によるカルボニル化は1950年代にポリマー合成を中心とした研究報告がいくつかあったのみで、30年の長きに渡り、注目を集めませんでした。この1990年にアメリカ化学会誌に発表されたアルデヒド合成はその突破口となり、現在のラジカルカルボニル化法の確立へとつながったランドマークともいえるオリジナルな文献です。

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Reviews on Radical/CO chemistry: I. Ryu, N. Sonoda, D. P. Curran, Chem. Rev. 1996, 96, 177. I. Ryu, N. Sonoda, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1996, 35, 1050. I. Ryu, Chem. Soc. Rev. 2001, 30. 16. I. Ryu, Chem. Rec. 2002, 2, 249. I. Ryu, H. Matsubara, Y. Uenoyama, Bull. Chem. Soc. Jpn, 2006, 79, 1476.

カスケード型反応は連続的に複数の炭素−炭素結合形成が可能な反応であり、現代有機合成を象徴する有用な反応プロセスです。われわれのグループでは最近、α—メチレンラクタムの新規な合成法を達成する事が出来ました。2番目の例では天然物アルカロイドの一種であるR−コニーネの合成応用例です。
この窒素上の環化反応の遷移状態を計算科学的に導いたところ、炭素上とは対照的な遷移状態であり、窒素の孤立電子対とアシルラジカルのπ*軌道との相互作用の重要性が明らかとなりました。アシルラジカルのSOMOとイミンのπ*

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軌道の相互作用だけではないことから、dual orbital effectが反応の鍵であるという結論が導き出されました。この研究成果はメルボルン大学の計算化学チームとの国際共同研究による成果です。

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Miyazato, H.; Kuriyama, H.; Tojino, M.; Komatsu, M.; Ryu, I. et al. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 5632
Tojino, M.; Otsuka, N.; Fukuyama, T.; Matubara, H.; Ryu, I. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 7712. Matsubara, H.; Falzon, C. T.; Ryu, I.; Schiesser, C. H. Org. Biomol. Chem. 2006, 4, 1920.
Schiesser, C. H.; Wille, U.; Matsubara, H.; . Ryu, I. Acc. Chem. Res. 2007, 40, 303.

筑波大学の細見研究室との共同研究では4炭素成分を一気に連結させるカスケード型反応でトリケトンの一段合成を達成しました。さらに、アセチレンと一酸化炭素とアミンをラジカル反応条件で反応させ、α−置換のアクリルアミドの合成にも成功しました。この反応ではラジカル連鎖反応過程の中にイオン反応が協調して関与しているというハイブリッド型の反応機構で進行します。複数の活性種が混在しそれぞれに力を発揮するところがとても大事な点です。

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Miura, K.; Tojino, M.; Fujisawa, N.; Hosomi, A.; Ryu, I. Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2423.
Uenoyama, Y.; Fukuyama, T.; Nobuta, O.; Matsubara, H.; Ryu, I. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 1075.

以下のスキムにはこれまでに開発したカルボニル化反応のいくつかの例をまとめて示します。一酸化炭素はそれぞれの化合物に組み込まれています。なお、緑のカラムで囲ったものはスズ試薬を用いた反応例ですが、現在、環境に配慮したスズを用いない反応開発への転換にも積極的に取り組んでいます。

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ジアニオン種による合成反応

当研究室ではジアニオン型有機銅錯体を用いる3+2型環化反応を見出しています。この反応ではケトンジリチオジアニオンから誘導されるクプラートがエノンと反応し、生成物としてケトアルコールを与えます。興味深いことに、エノンのクプラートへの1,4−付加で提唱されている従来型の反応機構では本生成物の生成過程はうまく説明出来ません。そこで銅はエノンのβ位ではなく、むしろα位に結合生成する可能性、すなわち、炭素−炭素二重結合部分へのカルボクプレーションがまず生起し、α—銅ケトンが生成し、このカルボニル基をエノラートイオンが求核的に捕捉する反応機構を提案しています。重水によるクエンチでは重水素の立体選択的導入が起こりましたが、この事実は架橋部位に炭素−銅結合が生成していることを支持しています。

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さらに、ケトンα,β−ジアニオンを二重結合に付加させることでケトンα,δ−ジアニオンへ容易に変換させることが出来ます。このことからジアニオンをプラットフォームとする置換ケトンの合成戦略が可能となりました。

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Ryu, I.; Nakahira, H.; Ikebe, M.; Sonoda, N.; Yamato, S.; Komatsu, M. J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 1219.
Yamato, S.; Yamamura, G.; Komatsu, M.; Arai, M.; Fukuyama, T.; Ryu, I. Org. Lett. 2005, 7, 2489.
Nakahira, H.; Ikebe, M.; Oku, Y.; Sonoda, N.; Fukuyama, T.; Ryu, I. Tetrahedron, 2005, 61, 3383.


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原子効率型の触媒反応

当研究室では新しい触媒反応の開発についても検討を行っています、最近の成果ではルテニウムヒドリド錯体の多芸さを活用した炭素−炭素結合生成反応の開発です。すなわち、不飽和アルコールや不飽和アルデヒドを二量化させる反応を見出しました。

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反応機構の解釈からこの触媒がマルチタスクをこなす優れた触媒であることがわかりました。

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この成果は次のスキムに示すように、数多くの原子効率型結合形成反応の開発につながりました。

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T. Doi, T. Fukuyama, S. Minamino, G. Husson, I. Ryu, Chem. Commun. 2006, 1875.
A. Denichoux, T. Fukuyama, T. Doi, J. Horiguchi, I. Ryu, Org, Lett. 2010, 12, 1.
T. Fukuyama, T. Doi, S, Minamino, S, Omura, I. Ryu, Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 5559.
S. Omura, T. Fukuyama, J. Horiguchi, Y. Murakami, I. Ryu, J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 14094.
S. Omura, T. Fukuyama, Y. Murakami, H. Okamoto, I. Ryu, Chem. Commun., 2009, 6741.


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グリーンな反応からグリーンな反応プロセスへ

フルオラス媒体の反応メディアおよび反応液膜としての利用

親ペルフルオロカーボン性はフルオラス性と呼ばれ、有機合成への新しい方法論に応用されつつあります。ハイブリッド型のフルオラスエーテルであるF-626は花王で開発された安全性の高い含フッ素化合物ですが、このF-626を用い、回収再利用可能な反応媒体として各種の合成反応に溶媒として用いることが出来ることを示しました。結果としてF-626はDMFやジエチレングリコールやo-ジクロロベンゼンのようなよく使われる高沸点有機溶媒の代替溶媒として利用可能です。例えば、高温を必要とするレトロアルドール反応もF-626を用いてうまく進行させることが出来ます。

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F-626 is a SAFF solvent!

また、ペルフルオロカーボンの比重が大きい性質を利用し、三相系あるいは四相系の反応を新規に開発しています(松原 浩研究室、D. P. Curran研究室との共同研究)。たとえばペルフルオロヘキサンを液膜とした方法では、発熱的臭素化が滴下漏斗や冷却装置を必要とせずに良好に進行します。最終的に三相から二相へと移行することからフェイズバニシング法と名付けましたが、その簡便さに注目が集まり、他の研究グループの関連研究を誘発しています。

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Fukuyama, T.; Arai, M.; Matsubara, H.; Ryu, I. J. Org. Chem. 2004, 69, 8105.
Matsubara, H.; Yasuda, S.; Ryu, I. Synlett., 2003, 247.
Ryu, I.; Matsubara, H.; Yasuda, S.; Nakamura, H.; Curran, D. P. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 12946.
Review: Ryu, I.; Matsubara, H.; Nakamura, H.; Curran, D. P. Chem. Rec. 2008, 8, 351.


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マイクロリアクターによる連続フロー型反応プロセス

イオン液体を媒体とするマイクロフロー系触媒反応

有機化学者は手に取ることのできるガラスフラスコを用いた反応に長く親しんで来ました。しかしガラスフラスコは人間の大きさにはなじんでも化学反応にとって理想的な反応空間であるとはいえません。これに対して数十から数百ミクロンのマイクロ空間を反応空間とするマイクロリアクターは熱移動と物質移動の両面において理想的な反応空間といえます。柳研究室では発足した200年からマイクロリアクターによる合成研究をいち早くスタートさせました。これはこの年の3月にドイツのマインツにあるIMMの研究所を訪問したことが大きな契機となりました。
現在では下記に示すような国産のマイクロリアクターシステムによる研究を推進しています。

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http://www.michs.jp/

イオン液体は優れた触媒反応のメディアとして機能することに着目し、この触媒反応系をマイクロリアクターを用いたフロー系で行うこととしました。ソノガシラカップリング反応をイオン液体で行ったところ、銅塩を助触媒として加えることなく反応が良好に進行し非対称アセチレンが良い収率で合成できました。この反応を40ミクロンのチャンネル幅を持つマイクロミキサーと共にフロー系で実施しました。その結果、反応は良好に進行し、触媒と溶媒(イオン液体)のリサイクルが達成出来ることを試しました。この成果は注目を集め、短期間に200回を越える被引用件数を数えるものとなり、その影響力を示唆しています。
また、われわれは数百グラムから数キログラムの合成手段としてマイクロフローシステムが、うまく機能することを、多くの実例で実証しています。また研究者に必要となるマイクロデバイスの評価と追求も行っています。
これらの研究成果の多くは、最近のSynlett誌の総説にしたためています。

Fukuyama, T.; Shinmen, M.; Nishitani, S.; Sato, M.; Ryu, I. Org. Lett. 2002, 4, 1691.
Fukuyama, T.; Rahman, M. T.; Sato, M.; Ryu, I. Synlett (Accounts) 2008, 151.


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一酸化炭素加圧下にカルボニル化反応もマイクロフロー系で行いましたが、通常のバッチ反応に比べて選択性が良く、一酸化炭素の著しい低圧化が達成できました。これは気液界面の表面積と液体の体積比がマイクロフロー系では圧倒的に優れていることが、効果的であったためです。当初はマスフローコントローラーを含む煩雑なフロー系の反応装置を用いていましたが、現在では気体と液体の二相系反応を効率に行えるフロー型反応システム(写真)を開発し研究の円滑な進行に役立てています。

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Liu, S.; Fukuyama, T.; Sato, M.; Ryu, I. Synlett. 2004, 1814.
Liu, S.; T. Fukuyama, T.; Sato, M.; Ryu, I. Org. Process Res. Dev. 2004, 8, 477.
Rahman, M. T.; Fukuyama, T.; Kamata, N.; Sato, M.; Ryu, I. Chem. Commun. 2006, 2236.


熱効率や光透過効率に優れたマイクロフロー系ラジカル反応

熱的なラジカル反応もマイクロリアクターで効率よく進行することを見出しています。下記には迅速ラジカル環化反応の例を示します。高い熱効率のため、反応時間はわずか1分で進行します。

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ラジカルカルボニル化反応もマイクロフロー系で良好に進行します。

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光照射反応もマイクロフローリアクターが得意とするところです。下記の例では光ラジカル反応の例を示しています。すなわち創薬中間体合成に必要なBarton反応が、LED光源によって良好に進行します。このことは省エネルギー型の光反応が可能であることを示しています。また製造を考える上でも、大出力光源を必要としない点は大きな利点といえます。

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時代はベンチトップファクトリーへ

われわれは数百グラムから数キログラムの合成手段としてマイクロフローシステムが、うまく機能することを多くの実例で実証しています。また研究者に必要となるマイクロデバイスの作成と評価と改善も行っています。デスクトップコンピュータからラップトップコンピュータへ時代は大きな変遷を遂げましたが、化学製造の世界でも、巨大プラントに頼らないベンチトップファクトリー(実験台工場)が、もうすぐ実現できることでしょう。そうなると、自然界で人間だけが巨大製造設備に頼るという状況がかわります。世界は科学の力で変わっていくといった意味でも好例といえるでしょう。

Fukuyama, T.; Kobayashi, M.; Rahman, Md. T.; Kamata, N.; Ryu, I. Org. Lett. 2008, 10, 533.
Wienhoefer, I. C.; Studer, A.; Rahahman, M. D.; Fukuyama, T.; Ryu, I. Org. Lett. 2009, 11, 2457.
Fukuyama, T.; Rahman, M. T.; Kamata, N.; Ryu, I. Beilstein J. Org. Chem. 2009, 5, 34.
Sugimoto, A.; Fukuyama, T.; Takagi, M.; Sumino, Y.; Ryu, I. Tetrahedron 2009, 65, 1593.


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