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戸治野 真美
大学院博士後期課程2006年3月修了
公益財団法人野口研究所 勤務

 私は、学生時代も含め10年以上の間、有機合成化学の研究に携わっています。

 有機合成化学は医薬品から電子材料にいたるまで人間社会に有用な化学物質の創製に不可欠な学問です。その研究実験は、化学反応を行い、次いで反応の後処理、生成物の精製と同定という一連の流れに沿って進められます。言葉にすると、概ね同じような操作の繰り返しのように思えます。しかし、反応条件が少し変わっただけでまったく異なる実験結果が得られることも多く、新しい発見をするチャンスがたくさんあります。自分の推測したとおりの実験結果が得られた時は、何とも言えないくらい充実した気持ちになります。さらに、積み重ねた実験結果を研究成果として学会発表や論文発表という形に仕上げることができたら、一つの物事をやり遂げた達成感が味わえます。

 長い間、研究に携わっていると、順調に研究が進むこともありますが、どんなに工夫しても期待した結果が得られない時があります。この苦境の時期を乗り越えるために、何かしらの突破口を見つけなければなりません。先生や研究室の仲間とのディスカッションが必要になることもあります。しかし、もっと重要なことは、思い通りにいかなかった実験結果たちが一体何を示唆しているのかを論理的に考えることだと思います。経営学の父と称されるP.F.ドラッカーは、「今できることは何か、やらなければならないことは何かをきちんと見据えて、着々と自分にしかできない分野をつくっていった。」 と 「マネジメント」 という本に書いています。この本には、研究の内容自体と直接の関係はありませんが、研究を行う上でたいへん重要なことが書かれています。研究室での生活は、ただ単に学問の知識や実験技術を学ぶだけでなく、「今、すべきことは何であるのか」 を論理的に思考し、実行する力を養う絶好の機会だと思います。

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戸治野さん